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歌仙と見習い

歌仙兼定は笑わない。とはいえ仏頂面というわけでは決してなく、むしろ逆で、つねに淡く微笑んでいる。彼のことをやさしい刀だと人の子は言うが、それは全くの間違いだと彼自身は思っていた。庭に咲き誇る花に目を細め、口角をほんの少しあげる。――目で、耳…

臆病な鼓動ふたつ

※お題箱より貴方の左心房を、僕に下さいの二人の来世 教室の窓際に立って外を眺めていた。よく晴れていて、グラウンドでは、陸上部が延々とコースを走っている。長距離走の練習をしているのだ。同じ場所を、一定の速度で走り続ける姿を眺める。マ…

劫火_06

むかしむかしあるところに、へびの神様がおりました。かれはとてもやさしいこころを持っていましたが、とてもおくびょうで、山の奥深く、人のこないみずうみの近くにすんでおりました。ある日、いつものように水をのみにきた神様は、みずうみの遠くの滝にふし…

劫火_05

高い所から平原を眺める。言葉がでない。ここは高い山の中腹で、朝から歩いてたどり着いたころには午後になっていた。空が広い。山は薄く雲のヴェールがかかったようになっている。胸のすくような風景だった。「どうしてこんなに高い場所に来たの?」草原で準…

鉄。あるいは、それとよく似たもの

※お題箱 歌仙兼定が神様っぽい歌さに  隣の席のゆうくんは、いつも日に焼けていた。とりわけ夏になると、休み時間のチャイムと共にグラウンドにくり出し、プールでは常に全力で水しぶきをあげるので、表面を焦がしたパンのようになる…