潮騒

すくわない(27)

「やーっと出てくる気になったか」難しい顔をして立ち尽くしている男に和泉守は声をかける。長谷部は苦々しい顔を浮かべた。「お前が、この女に、くだらないことを言うから……!」「どうせ聞こえてねぇよ。もう忘れたのか」はっとした顔をしてから、情けなく…

屋敷蛇のおはなし

昨日は雨が降ったのか、地面が水を撒いたように濡れていた。縁側の上で片膝を立てて座りながら静かに庭を眺める。新緑が光を受けて輝いている。爽やかな初夏の朝だった。風が庭を通り抜けていき、さらさらという葉が揺れる音に耳を澄ませると、心が透明になる…