すくわない(30)
薄く目をあけると、白っぽい壁が目に飛び込んでくる。既視感に襲われて記憶をたどる。ここは病院で、過去に一度来たことがある。ぼんやりとした意識のまま視線を窓のほうに向けると、白い服に身を包んだ女性がいた。カーテンを纏めて端に寄せている。生地の重…
文章すくわない,潮騒
すくわない(29)
闇から出てきたのは異形の頭だった。最初に鼻先、続いてずるずると胴体が押し出されてくる。女を抱えて岩陰に向かった。移動するときに微かに水が跳ねて、化け物がさっとこっちを向く。聴覚があるのかと、脳が意外と冷静に判断した。化け物はしばらく宙を見つ…
文章すくわない,潮騒