劫火_06 - 4/4

交差点で、一人の男がぼんやりと立ち尽くしていた。都会は人が多く、特に邪魔な場所にいるわけではないが、時折肩がぶつかって、舌打ちを浴びせられる。
ビルの中心にある大きな液晶の画面には、特報が表示されていた。
「ニュースです。刃物を持った男が電車内で複数人に――重軽傷を、」
画面は目まぐるしく変わる。自殺、汚職、ウイルスの蔓延――。男がじっとそれらを見つめている間、ひとつとして、心躍る情報は流れなかった。
何度目か分からない舌打ちのあと、「邪魔なんだよ」という声と共に、ついでのように靴に唾を吐かれた。
伽藍洞の瞳で唾液のこびりついた靴を見つめる。それは瞬く間に肺やホコリにまみれて薄汚れていった。
膝丸は何かを待っていた。でもそれがなんなのか、自分でもよく分からない。
暫くじっとしていたが、ふと顔をあげる。回遊魚のような人の流れを俯瞰しつつ、ぽつりと呟いた。
「これが、君の守った未来か」
諦めたように笑いながら、男はくるりと踵を返し、暗い路地裏に入る。背中に未練はひとつも無かった。
瞬きをした瞬間、男の姿は跡形もなく消えた。