劫火_01 - 8/9

明るい光が半径一メートル程度の地面を照らしている。
火は見ているだけで落ち着く。それに、悪いものも寄ってこない気がするので好きだった。組み合わさった木を舐めるように炎がつたい、ときどき炭が爆ぜる音がした。
てきぱきと焚火の準備をして、その後、簡単に膝丸の傷の手当てをした。近くに生えていた薬草をちぎって傷口にはり、借りた布で押さえる。一部始終が終わるまで彼は石みたいにじっとしていた。なぜか拷問に耐える囚人のような表情を浮かべている。触れるたびに体がやけどをしたときみたいにびくつくので、主でもない女に触れられるのは嫌なのだろうと思った。
「ごめんね」
生地の端を折り曲げながら呟く。思いのほか悲しい声色になってしまった。男は驚いて顔をあげる。何か否定の言葉を口にしていたが軽く流して「終わったよ」とぶっきらぼうに言えば、不器用に口角をあげていた。
ぼんやりと男を眺める。彼は火を挟んだ向こう側から飽きずにこちらを見つめていた。同じように体育座りをしながら、幽霊をみているかのような顔つきで。
「さっきも言ったけど」
ぽい、とそこら辺にある小枝をほうり込む。火が風を受けて少しだけ大きくなって、また元の大きさに戻った。
「連れていくことは出来ないから。私は一人で生きていけるし、誰かと旅なんてしたくない」
「俺は君と共に行く」
重いため息が零れた。さっきからこれだ。壊れたラジオのように一緒にいると言う。それに私は反対をする。男は決して首を縦に振らない。まるで堂々巡りだ。
「だから、それは出来ないんだって。何回言わせるの」
つい苛立ちが声にでてしまう。膝丸は静かに首をふった。
「何度だって言う。俺は君の傍を離れない」
頑なだなと思いながら視線をそらす。木の枝に旅装束が掛けられていた。夜のうちに火の近くに置いておけば、明日には乾くだろう。
纏わりつくような視線には無視をして、その場に体を横たえる。相手の気持ちなんて、どうでもいいと思った。
明日になれば体力が回復するだろうから、また術を使って拘束しよう。あの悲鳴を思い出すと胸が痛むけれど、それも一瞬の間だけ。それに、こんなに言うことを聞いてくれないなら、強硬手段に出るしかない。伝達係の鷹が戻ってきたら、政府に連絡して、膝丸を今の主人の元に返してもらおう。
何となくやるべきことが明確になって、頭の中がすっきりとした。
――ひとりで生きていきたい。
一人だったら、無駄に悩むこともないし、傷つくこともない。
誰かといるより、孤独でいるほうがずっといい。ばれないように薄目をあけて男を見つめる。彼は相変わらず置物のように、真っ直ぐ前を向いていた。
火が下側から顔を照らす。本物の蛇みたいだった。