すくわない(4)
ぼんやりと縁側に座りながら庭を眺めていた。雪は半分溶けて、太陽の光に反射している。太ももに刀を置いたままじっとしていると、鳥の鳴く声が聞こえる。屋根に氷柱が出来ていて、昼の気温にとけてぽたぽたと雫が垂れていた。そっと鞘を握る手に力を込める…
文章 潮騒すくわない
すくわない(3)
部屋に戻るとこんのすけがそわそわとしていた。障子を引くと同時にぱっと顔をあげる。「どうしたの?」布から刀を取り出して刀かけに置きながら訊ねると、こんのすけは絞り出すような声を出した。「たった今、政府から連絡がありまして」「うん」つめたくな…
文章 潮騒すくわない
すくわない(2)
それなりに酷い扱いを受けてきたということは、人に恨みを持っているだろう。例えるなら、敵地の中にいるようなものかもしれない。それなのに、こうものんびりとしているのは、いささか緊張感に欠ける。和室でぼんやりとしながら、膝の上にいるこんのすけを…
文章 潮騒すくわない
すくわない(1)
雪が降りそうだった。空は薄い膜が張ったように白い雲で覆われている。冷たい風が巫女服の間を通り過ぎていき、首を縮めてやり過ごした。庭は色を無くしている。どこもかしこも、冬枯れていた。足を動かすたびに腰にさしている刀が揺れてとても歩きにくいが…
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